オムニチャネルとは?
オムニチャネルとは、様々な定義があります。店舗、ECの統合と定義する人もいれば、あらゆる顧客接点を持つことと定義する人もいます。でも、よく考えると、どちらも同じことを言っていて、広義・狭義の違いだと思います。
私たちは、オムニチャネルは、マーケティングチャネルの再定義のきっかけであり、再構築で考慮すべき要素であると考えています。具体的には、マーケティングチャネルの再構築による、広告・IT・在庫も含めた影響と、その対策です。ちょっと難しい表現ですが、簡単にいえば、「売上視点からの販売方法の見直し」です。売上視点からの販売方法の見直しには、非効率な作業のコスト削減もあれば、販促費を使って売上を伸ばすことも含みます。たとえば、商品在庫の確認は、その場で電話をすれば同様なことを出来なくもありません。でも、それではお客さまを待たせてしまうことや、従業員の業務が煩雑で大変になるため、IT化することで実現することもオムニチャネル施策の1つです。それ以外にも、オムニチャネルによる特性があり、それを自社の優位性と、どのように融合させるかが、本当のオムニチャネルだと思います。
本当のオムニチャネルとは、どういうこと?
本当のオムニチャネルについて深堀してみましょう。ただ、業種・業態・企業によって、マーケティングは全然違いますので、一般論で概念のご説明となること、ご了承ください。本記事は、オムニチャネルの考え方をわかりやすく整理して説明することを目的としています。理論の中にも現実的で実践的な内容することで、使えるオムニチャネルを提供することにあります。
貴社の強みは何ですか?
いきなりですが、貴社の強み(得意・情熱)なことはなんでしょうか? 自社商品でしょうか。それとも、接客でしょうか。これから、オムニチャネルを考えていきますが、私たちは自社の強みが中心にあると考えています。オムニチャネルに限ったことではありませんが、頭で考えただけでは成果にはならず、実行してはじめて成果がうまれます。この実行力に必要なのが、強み(得意・情熱)だからです。
知らない分野で成功している人もいると事例を聞くことがありますが、そのような人ほど情熱があり学習しています。学生時代に、試験の前に勉強していないと言っているが、自宅では猛勉強しているのと一緒です。良い点数を取りたいと思っているからで、経営も成功したいと思っているからこそ、学習をしているのです。
私たちは、オムニチャネルを考えるには、自分たちの強みをコアにして検討する必要があり、それを明確にしておくことが大切です。できれば、弱みも知っておくと良いと思います。
たとえば、私たちの強みは、IT経営の知識と経験です。ITで経営をどのように成功させるか・役立てるかという点については、他の人よりも成果をだせると思っています。背景には、ECやネットビジネス企業等々での実務経験・MBAといった経験と知識に裏付けされているからこそ、他社とは違ったサービスを提供できると思っています。
同様に貴社にも、好きな分野・得意な分野といったことがあり、それをビジネスとして展開していると思います。鞄に詳しければ、鞄の商品説明はもちろんのこと、メンテナンス方法、保管方法等々、顧客は知りません。だから、詳しい人に説明してもらえると、とても助かり、満足して鞄を購入していきます。これが、鞄のことを知らない店員であると、顧客と会話も出来ずに、購入は顧客の知識だけに委ねることになり、チャンスを逃すだけです。強みは顧客を引き付ける役割があります。
まずは、自社の強みを明確にして、これからオムニチャネルの検討のコアとしてください。
外部要因と内部要因
オムニチャネルに入る前にもう1つです。外部要因と内部要因です。外部要因とは、簡単にいえば市場です。内部要因とは、先ほどの自社の強みも含まれますが、ここでは社内視点と考えます。
外部要因は、リサイクルショップを例に考えてみると、リサイクルショップを事業をするには、リサイクル品を仕入れなければなりません。どの地域であると集まりやすいか? 店舗はどこに出店したら売れるか? 競合はいるのか? 倉庫はどこにすべきか? 等々、送料や賃料などの経費が最小になる地域を検討します。検討した結果、仮に埼玉県は賃料も安く、都心に近いのでリサイクル品が集まりやすい、しかも競合が少ないとします。埼玉に出店すれば、人口も多く需要が多くあり、子供服などは重さで買い取ることで、目利きはなくても問題なく、リサイクルショップは成功しました。これが、外部要因から考えた、リサイクルショップの戦略です。
内部要因は、リサイクルショップで利幅の大きいブランドバックを扱うことにしたが、本物なのか?偽物なのか?判断がつかず、偽物を本物として売るわけにはいきませんので、目利きができるバイヤーを雇用することにしました。雇ったバイヤーが優秀で、ブランドバックが高値で買い取ると評判になり、リサイクルショップは成功しました。これが、内部(社内)要因から考えた、リサイクルショップの戦略です。
外部要因も内部要因も、リサイクルショップとしては成功しました。しかしながら、外部要因だけで戦略を考えると、もし、大手が埼玉に進出してきたら、資金力を使ってお客さまを奪っていきます。逆に、内部要因だけで考えると、もし、埼玉ではなく、市場規模は大きいが競合も多い東京で出店したら、経費も高くなるので、儲けも少なく、成功は見込めません。
つまり、競合に負けないリサイクルショップを経営するには、外部要因・内部要因の両方から、リサイクルショップの戦略を考える必要があります。
このことは非常に重要です。皆さんも会議などで、意見がぶつかることがあると思います。状況にもよるとは思いますが、外部要因視点の強い意見と、内部要因視点の強い意見が、ぶつかっているようです。
リサイクルショップでは、子供服だけでは先行き不安なのでブランドバックも扱うべきだという意見と、ブランドバックは偽物もあり、リスクがあるという意見です。当然ながら、どちらも正しいです。子供服だけで成功しているリサイクルショップもあると思いますし、ブランドバックを扱っているリサイクルショップもあります。つまり、どちらにもリスクがあり、このリスクをどのように解決(もしくは許容)して、リサイクルショップを経営するか検討することが、大切なのです。
では、外部要因・内部要因の両方が大切ということを理解したうえで、やっと、本当のオムニチャネルを考えていきたいと思います。
販売チャネルを選ぶ
オムニチャネルでは、あらゆる顧客接点をビジネスの機会と考えます。店舗、ECに限らず、インターネットに接続される全てのもの、代理店、物流も販売チャネルと見なします。また、どのチャネルからでも、購入に至れば売上にはわかりはありませんので、顧客に最適な販売チャネルを提供することにあります。
でも、注意すべきは、顧客は十人十色だからといって、全ての販売チャネルで販売しようとすることです。販売チャネルにも向き不向きがあり、顧客はゼロではありませんが、非効率でパフォーマンスが悪い販売チャネルはあり、そこに経営資源を投入するのは良くありません。経営資源は限られていますから、効率的な販売チャネルに経営資源を使った方が、売上は当然ながら多くなります。
本当のオムニチャネルで考えることの1つは、販売チャネルを選択することです。商品や、事業内容にもよりますが、向き・不向きの販売チャネルは存在します。1つ1つ、良い点・悪い点を洗い出してみるもの良いかもしれません。そして、効率性(パフォーマンス)の高い販売チャネルから推進することが好ましいです。
リサイクルショップで考えてみると、リサイクル品は希少性のある商品ではなく、コモディティ化された商品ですので、顧客は商品そのものについての知識は、ある程度は持っていると思われます。よって、商品価値をアピールすることは重要ではありません。リサイクル品のメリットは、新品に比べて安いということですので、価格をアピールすることが大切となります。このことから、販売チャネルとしては、人の往来が多い店舗で、看板やショーウィンドウで実商品と価格を見せることが好ましいとなります。とはいえ、リサイクル品を人前で購入したくない顧客もいますので、ECで同じ商品を販売します。これにより、店舗が販売チャネル以外にも広告としての役割も持ち、ECと併売することで、売上に貢献します。
また、代理店販売は、リサイクルは薄利であることから、代理店を経由することは誰もメリットを感じません。ある程度の規模があれば良いですが、優先順位としては低いでしょう。いちおう、紙の通販を考えてみると、リサイクル品は、商品情報よりも価格ですから、通販にすると冊子作成、配布コスト等を考えると、コストは掛かり過ぎます。ですので、こちらの選択肢としては低いとなります。
次に、社内の業務を考えてみると、販売チャネルを店舗とECの併売とした場合、リサイクル品はある意味では1品ものですので、在庫管理に注意しなければなりません。もし、店舗で売れたらEC在庫をゼロにしなければなりませんし、ECで売れたなら店舗の陳列棚から外します。ちょっと面倒かもしれませんが、必要な業務です。また、コモディティ品を扱うわけですから、競合他社も同様な戦略をとってくることは予想されます。ですので、常に競合他社の価格を調査して、販売価格を調整していく必要があります。
このことから、リサイクルショップでは、規模にもよりますが、店舗POSとECの在庫連動、店員へのEC販売実績を通知、商品価格調整が、オムニチャネルの販売チャネル視点による解決すべき課題となります。
クロス集客
次は集客を考えます。集客は、販売チャネルまでの誘導です。基本的には広告となりますが、オムニチャネルならではの視点で考えてみたいと思います。
オムニチャネル視点では、何かと目にするO2Oです。O2Oは、オンライン(インターネット)からオフライン(店舗)へ、顧客を誘導することです。O2Oで、注意すべきは、店舗に誘導することが良いとされる考え方です。たとえば、化粧品ではO2Oは重要です。ECでも化粧品は購入できますが、実際に自分に合う商品なのか確かめることが大切です。年齢の変化や新商品は、いまの化粧品から違う化粧品に変えるきっかけになるため、化粧品販売としては、来店していただき、自分にあった化粧品をアピールする機会が最重要な販売チャネルとなります。しかし、リサイクルショップは、店舗でなくても、ECでも販売出来れば差はありません。ECは送料がかかりますが、利益を考慮したうえで、3,000円以上でなければ送料無料になりません。としていますので、重要度は低くなります。
O2Oで注意すべきは、扱っている商品がO2Oすべき商品なのか? O2Oではなく売れれば良い商品なのか? 見極める必要があります。おそらく、ショールーミング対策としてO2Oが話題になってきたのだと思いますが、家電量販店では、他社の方が安値なら値引きしてくれます。これは、店舗でインターネットの価格を調べて、最安値することですので、これもショールーミングです。つまり、双方向のO2O(オンラインや→オフライン、オフライン→オンライン)があるとも言えます。そして、残念ながら、コモディティ化された商品は、価格勝負になってしまうことは避けられず、ショールーミングは止めることは出来ないと思った方がよいでしょう。ショールーミングの対策で効果があるのは、価格以外の付加価値です。アマゾンが、ザッポスを買収した理由は、ザッポスの優れたサービスがあったからです。(ちなみに、ザッポスはJavariのサービスを作った会社です)ザッポスは、顧客の問い合わせに親身に対応します。在庫切れだった場合は、競合他社のECに在庫があることを調べて、教えてくれます。これで、顧客に喜んでいただければ、口コミでも広まりますし、靴を買うなら、とりあえずザッポスということになります。
ちょっと脱線した感じですが、オムニチャネルで考える集客はクロス集客ということです。化粧品販売は店舗だけではなく、リピートはECであっても売上です。化粧品販売は、店舗・ECのそれぞれの特性を活かすことで、最大の効果を発揮しようとしています。これこそが、オムニチャネルの集客で考えるべきことだと思います。それを実現するためには、ペルソナとカスタマージャーニーマップを使うことが有効です。ターゲットとなる顧客像を作成し、顧客接点における心理・行動をマップ化して検討することは、とても有意義です。
優良顧客を育てる
オムニチャネルは、選択した販売チャネルのそれぞれの顧客を統合(一元管理)します。また、リサイクルで考えてみると、店舗で買取(顧客が売る)したとします。残念ながら、想定よりも安値になってしまいますが、不要と思っていた品物を換金したのですから、得をしています。リサイクルショップにとって、優良顧客とは、何かしらの商品を売っていただき、そのお金を元手にリサイクル品を購入し、不要になったら、その商品を今度は売ってもらうことです。つまり、同じ商品を買って、売ってもらうことです。リサイクルショップにとっては、商品の循環が利益となりますので、これを繰り返すことです。
オムニチャネルでは、このような顧客を複数の販売チャネルを活かして、育てることにあります。メルマガ配信、キャンペン案内などをメール配信することはしていると思いますが、メールだけではなく店舗と整合性を取り、どこでもOne to Oneの対応をすることで、優良顧客へ育っていきます。店舗とECのポイント共通化もその1つではありますが、接客も共通化することができます。たとえば、リサイクルを売るときは、古物営業法により、個人情報の提出が必須です。つまり、相手の名前がわかり、店舗で履歴を見ることができるはずです。そうなれば、買取金額を調整して、その場でリサイクル品を購入することを促すこともできます。リサイクル品を購入する際には、会員証で名前がわかり、これも履歴を見て、いま購入した商品の買取価格を提供して、不要になったら売ってもらうことを促すことができます。つまり、ネットの世界の履歴、店舗の履歴も全ては有益な情報であり、優良顧客を育てるには必要不可欠な情報です。
バックオフィス
オムニチャネルにより、販売チャネルが決まり、顧客管理を一元化することになると、当然ながらバックオフィスの業務に影響があります。取扱量が増えていけば、業務は煩雑になっていきます。人を雇っても教育やコストが嵩みます。かといって、万年多忙であると、ミスも多くなり顧客にご迷惑をおかけするリスクは高まります。このために、IT化することが大切になってきます。
しかし、いまの業務をIT化しても投資対効果は低くなってしまいます。オムニチャネルのバックオフィスを成功させるには、2つのポイントがあります。1つは、バックオフィスのIT化には、BPR視点で業務全体の整合性を考慮すること。もう1つは、自社の強みをサービス化する視点で考えることです。
BPR視点で業務全体の整合性を考慮するは、仕入れから販売、入金までの流れのスムーズにすることです。無駄を取るということもありますが、制約理論にもとづき業務を設計することです。制約理論では、ボトルネックを超えた生産性は無いと言っています。たとえば、仕入れ量以上の販売をすることは出来ません。つまり、売上を上げるには同時に仕入量も増やす必要があるのです。そうなれば、倉庫スペースも必要になりますし、ピッキングや梱包等々の作業も比例して増えていきます。つまり、1つの工程だけを見てIT化しても、まわりも一緒に考えてあげないと、全体の生産性は上がらないということです。だからといって、一気に全体をIT化するということはありません。経営資源の再配置をすることで対応できます。
自社の強みをサービス化する視点は、セブン&アイでは、コンビニで受け取れるサービスを開始しています。これは、宅配時間には帰宅していない顧客のためです。これを実現するには、物流の仕組みを改造し、店舗への配送リストに個人向けの配送も加えます。背景には、セブン&アイでは独自の配送技術があるからです。もし、物流業者に丸投げしていたら、物流コストが膨らむだけでサービス化に踏み切ることが出来なかったと思います。リサイクルショップでは、買取が重要になってくるのですが、宅配で買い取ることもあれば、買取専門のお店と提携する仕組み作りも1つです。
バックオフィスは適応範囲が多いので、影響も大きいです。かといって、最初から完璧に準備する必要はありません。オムニチャネル戦略を取ったからと言って、翌日から売上が何倍にもなるわけではなく、時間がかかるものですので、計画的に優先順位を決めながら整備していけば、問題ありません。
まとめ
オムニチャネルを検討する上で、最低でも検討すべき点をご説明しました。これ以外にも、たくさんあるのですが、広げすぎても検討は大変になりますし、ブレてしまいます。ここで、お伝えしたいのは、本当のオムニチャネルを考えるには、どうすべきか考えることから始めるということです。ネット検索すると、広告・O2O施策・在庫等々を導入すべきであるとありますが、これはオムニチャネルの方針を決めて、その方針に従って施策を選択して対応すべきです。ECでコモディティ品を定価販売していたら、幾ら広告をだしてもコンバージョン率は低く、広告費用が嵩むだけです。そうではなく、自社の強みを活かしたサービスを提供するオムニチャネルを構築し、それに適した広告をすることが大切なのです。
本内容は、概念となるものです。それぞれ1つ1つに奥が深く、数行では表現できません。これについては、別途詳細に作成していきたいと思います。ここでは、オムニチャネルを導入するということは、単なる販売チャネルを一元化することではなく、本当のオムニチャネルを検討して導入すれば、もっともっと効果は高まるはずです。そのことをお伝えできれば幸いです。