オムニチャネル時代の機会損失と不動在庫をなくす適正在庫管理法

オムニチャネル

オムニチャネルの在庫管理は在庫切れが前提?

オムニチャネルの記事を検索してみると、店舗とECの在庫連携が重要で、オムニチャネル=在庫連携と説明している内容もあった。理由は、在庫が無いのにECで販売してしまわないようにするためである。店舗では、在庫が目に見てわかるが、ECは在庫引当しなければならないからである。在庫切れの商品を販売してしまうと、お客様にご迷惑をおかけしないための対策である。
でも、この考えは「在庫数が少なく売り切りたい時には有効な手段である」。言い換えれば、限られた少ない在庫を各販売チャネルで奪い合い、売れてしまえば、在庫切れで機会損失になることを許容している。つまり、効率的に売り切ることに効果がある考え方である。
経営視点でいえば、機会損失は無い方がよい。在庫切れで、お客様にご迷惑をおかけする事なく販売する視点では、各販売チャネルで適正在庫をマネージメントして、各販売チャネルで機会損失なく販売できるようにすることが望まれている。

適性在庫はどう考えるの?

では、適正在庫はどのように考えれば良いのか? ということになる。適正在庫の定義は考え方にもよります。たとえば、常に倉庫にある在庫数という考え方もあります。在庫数は常に変動するものですから、最大数(入庫直後の状態)という考え方もできますし、最小数(仕入発注しなければならない状態)と考えても不思議ではありません。ですので、ここでは「不動在庫および機会損失のリスクを最小限にする在庫数」と定義して考えることにします。
では、不動在庫および機会損失のリスクを最小限にする在庫数は幾つかといえば、「次の入庫までに販売できる数+バッファ」となります。
たとえば、1日の販売数が10個とします。入庫リードタイムを10日間とすると、適正在庫は100個となります。
次の在庫までに売り切れる数ですから、不動在庫になるリスクは減ります。また、在庫が底を付くときには入庫されますので、機会損失のリスクがなくなります。これが基本となります。とはいえ、販売数は変動するわけですから、バッファを持っておき変動リスクをカバーします。そして、入庫数(仕入数)は、次の入庫までに販売数になります。

オムニチャネル時代の不動在庫・機会損失の少ない在庫数は?

オムニチャネル時代の不動在庫・機会損失の少ない在庫数は?


ただ、仕入販売の場合は、仕入単位(最小ロット)が決まっている場合があります。ですが、上記で説明した内容が基本となり、差分調整することが、適正在庫と考えることができます。
たとえば、最小仕入ロットを100個とした場合、1日当たりの販売数が10個とすると10日間分の在庫となります。また、仕入発注から入庫までに15日かかるとすると、100個の入荷では足りませんから、200個の仕入が必要になります。そうなると、発注タイミングは入荷から5日後にすれば、丁度在庫切れになる頃に入荷されてきます。

バッファはどのくらい必要なの?

バッファは、販売数の変動リスク対策でもあり、不良品の交換などにも必要な在庫となります。キャンペーンや、様々な要因があって変動しますので、一概にはいえませんが、数日分の在庫でよいとは思います。
ここで注意すべきは、リスクを見過ぎて多めにバッファを取ると余剰在庫になる危険があるということです。また、一度に多くの仕入れるとボリュームディスカウントがあり、1個あたりの仕入れ値が安くなりますので、仕入れたい気持ちもありますが、以下のことに注意してください。

  • キャッシュフローは大丈夫か? >> マーケティングコストや倉庫コストもかかります。販売して入金するまでにはタイムラグがあります。余裕がないのであれば、やめておきましょう。
  • 売り切れる算段があるか? >> メーカーや卸がボリュームディスカウントするのは在庫リスクを減らすためです。仕入れて販売する小売りは消費者への販売ですから、ボリュームでの販売は見込めません。1個単位で売り切ることが見えていないと在庫リスクを抱えてしまいます。

オムニチャネルではどのように適正在庫管理すればよいか?

ある会社では、店舗在庫、自社EC在庫、アマゾン用在庫、楽天用在庫、ヤフー用在庫とオムニチャネルを展開しており、販売チャネル別に在庫数を管理しています。理由は、販売チャネル毎の担当者それぞれに売上目標が設定されているためです。ですから、在庫も販売チャネル毎に管理をするようにしています。これだと、各々の販売チャネルの担当者は、機会損失とならないようにリスクを含めた在庫数を持ちたくなります。となると、販売チャネル毎にリスクを持つので、会社全体としては大きなバッファ(リスク在庫)を抱えることになります。これでは余剰在庫になることは想像がつきます。いづれは、在庫処分として投げ売りをすることになりそうです。
でも、この会社では、上記のようなリスク在庫が膨らむことを想定して、2段階の在庫管理をしています。1階層目は、販売チャネル毎の在庫管理です。2階層目は、会社としてのバッファ在庫を管理します。上記に説明した適正在庫のバッファを会社共通在庫として管理しているということです。
このことにより、店舗在庫が少なくなったら、バッファから割り当てます。もしバッファから割り当てができない場合は、他の販売チャネルで販売数が伸び悩んでいる販売チャネルから、割り当てている在庫を移動をして補充しています。
つまり、販売担当者は、在庫数を気にするものの販売することに注力できるようにしています。そして、バッファを管理する担当者が、常に在庫切れにならないように調整しています。このバッファ管理担当者は、仕入れも担当しており、販売チャネルの担当者からの依頼で補充しますが、仕入れについては、任されています。こうすれば、余剰在庫にならず、販売チャネル毎に在庫管理をすることができます。

補足

この考え方には、当然デメリットもあります。売上が成績ですから、売上至上主義になる傾向があります。つまり、仕入コスト、在庫維持コストに対する意識が低くなります。役職者が見るのは利益です。ですので、分業のメリットがあるものの、収益性に悪い影響がある可能性があることをご留意ください。

まとめ

オムニチャネルでは、在庫の取り合いになることが懸念されます。ですので、在庫管理をリアルに引き当てる発想になりがちです。しかしながら、販売数と仕入タイミングをコントロールすれば、リアルに引き当てをしなくても支障はありません。それどころか、機会損失を防ぎながらも、余剰在庫リスクも減らせることができます。
在庫数の状況に振り回されるのではなく、うまくコントロールしていくことが在庫管理のポイントだと思います。