オムニチャネル時代のEC企業の逆襲

オムニチャネル

オムニチャネルがネット企業とリアル企業の戦いを激化させる!

流通業界は、これからオムニチャネル戦略が主流になっていきます。セブン&アイ、資生堂をはじめ、多くの企業がオムニチャネル戦略に投資をしていることから明らかです。具体的には、リアル店舗だけでなく、EC事業を本格化してリアルとネットを融合させた総合的なサービスを提供することになります。
他方で、アマゾンなどのリアル店舗を持たないEC企業にとっては、大手リアル企業が資金を投入してEC市場へ本格参入することは競合他社が増えることになり、放置するわけにはいかなくなってきます。ここで、EC企業の逆襲と題して、EC企業の戦略を考えてみます。

EC企業の逆襲

EC企業も大手流通企業の参入をただ黙ってみているわけにはいきません。何もしなければ、お客さまを奪われて悪循環に陥るだけです。
このような状況における経営戦略を考えると、2つの戦略が考えられます。1つは「同質化」です。これは新規参入者の強みを真似て強みと感じさせなくする方法です。もう1つは「更なる差別化」です。これは新規参入者がきても経験と知識で追随できないように、常に1歩先をいく戦略です。
この考えは、ランチャスター戦略の強者の戦略が基本です。しかしながら、相手はニッチでNo1になった企業ではなく、大手リアル企業の強者で資金力もあります。ですので、ランチャスター戦略をそのまま使うことはできません。自社の強みと融合させたアレンジが必要です。

EC企業が扱えない商品は無くなった

1479アマゾンは、アマゾンフレッシュというサービスを始めている。米国本社のあるシアトル他一部地域ではあるが生鮮食料品を扱うサービスである。アマゾンフレッシュの詳細は割愛するが、日本市場では、生鮮食料品は、ネットスーパーの「セブン&アイ」や、有機・低農薬野菜、無添加食品を宅配する「らでぃっしゅぼーや」などがある。この領域に、アマゾンも参入してきたということになる。いままで、生鮮食料品は賞味期限があり扱うにはノウハウや保管する投資も必要となることから、参入を敬遠してきた。リアル企業からすれば、リアル店舗が保管場所を兼ねることが出来ることから、実現しているサービスと考えられてきた。しかしながら、まだ限定的であるとはいえアマゾンも勝算があると判断して参入してきた。これで、リアルとネットで扱い商品の差は無くなったと言えるのではないでしょうか。
いままで、リアル店舗があるからこそ出来たサービスが強みでは無くなってくるということである。これは、EC企業がリアルの同質化を狙った戦略である。
とはいえ、生鮮食料品を扱うにはハードルは高いはずです。十年近い前ですが、お弁当食材の発注システムに携わったことがあります。まだ、賞味期限の短い生鮮食料品の受注予測は巧みな経験と受注予測システムの精度が低く調整に難航していました。気温が寒ければ温かい食品が好まれるが、温かいとあっさり系の食品が好まれる。それを天気予報など不確実な情報をもとに未来を予測しなければならないので簡単にはいきません。たしかレタスの賞味期限は収穫から1週間で、加工工場に運ばれるまでに3~4日経過(海外から輸入)し、残り3日で消費されなければなりませんでした。また、レタスなどは在庫管理が難しい食材です。幾つかは商品としてはお届けできない品質になってしまうレタスもあるかもしれません。ですので、受注予測とリスクをみて仕入なければなりません。これは、誰もが簡単に出来るものではありません。想像するにアマゾンでは、得意のビックデータを使い受注予測をしていると思われます。季節変動もありますから常に変数の調整ではあります。
この取扱い商品同質化戦略ですが、誰でも出来るわけではありません。強固な物流システムが確立されていなければ実現することはできません。現時点において、アマゾンも一部地域でノウハウをためているところだと思いますので、全国展開して成功できるEC企業は存在しないのかもしれません。

ITを駆使した差別化の強化

ITを駆使して、お客さまの利便性を高めて差別化を図る戦略です。ゾゾタウンは「WAER」というスマホアプリで、バーコードスキャンが可能でショールーミングできる機能を提供しました。ゾゾタウンは安く商品を提供することを強みとしていますので、お客さまからすれば、ゾゾダウンでの購入へ流れていきます。EC企業からすれば合理的な発想ですが、店舗からすれば接客してもバーコードスキャンされて実際にはゾゾタウンで購入されますので、嬉しくありません。このことから、写真撮影禁止としている店舗も出てきました。最終的には、ショールーミングを嫌ったアパレル業界からの圧力がかかったのか、この機能は2014年4月30日をもって終了しました。技術を駆使した発想ではありましたが、少し利他の心から外れてしまったのかもしれません。一時的には儲かると思いますが、業界全体が好循環でなければ成長し続けることはできません。お客さまを含めた皆が幸せになる戦略でなければなりません。ただ、ITを駆使する戦略は間違ってはいないと思います。EC企業の強みは、24時間365日、かつ、商圏の制約をうけないメリットがあります。このECならではの強みを活かせる、ITを駆使したサービスを提供するアイデアが差別化につながります。
他方でITは道具なので差別化することはできないと言われるかもしれません。しかし、道具と考えて発想のコモディティ化がおきてしまうようであれば、ITの潜在能力を活かせていません。グーグル、ヤフーは、知っての通りIT企業です。ITは道具ではなく、社員と同様であるという発想により、ITが成功に貢献するのです。(参考:CIOが語る!ITは優秀な社員です。道具と考えると失敗します。

オムニチャネルもECも共通課題は物流

オムニチャネルを展開するリアル企業もEC企業も共通する課題は物流です。デジタル化できない商品はどうしても物理的に物を運ぶという工程が必須になります。この物流コストは馬鹿にならず、どれだけサービスを高めながら物流コストを抑えるかがポイントになります。たとえば、ヤフーはアスクルの物流網を使うため提携しました。アマゾンも物流は得意としています。セブン&アイもスーパーやセブンイレブンへの定期ルート便があり、既に物流網が構築されています。構築されているとはいえ、終わったわけではなく、ラストワンマイルのための物流戦略は避けては通れない重要課題です。
では、中小企業はどうすれば良いかといえば、出来るだけ安く配送してもらえる物流会社を使うことです。量によりますが、法人契約により特別価格で配送していただけます。以前、EC企業に在籍していたときは、ヤマト運輸が法人間で取り決めた単価で配送していただいていました。また、最近ではエコ配という宅配会社が安く配送しています。エコ配の役員とお話しすることがあったのですが、首都圏に特化することでコスト削減が可能になり、安価で配送することが出来るようになったとのことでした。このエコ配ですが、アマゾンも利用している配送業者です。このように、交渉次第で配送コスト削減することは出来ます。是非、交渉してみてください。

まとめ

デザイニストラボがEC企業であるなら、地域リアル店舗との提携も面白いと考えます。EC企業の強みはインターネットにおけるマーケティング力です。いまや、マーケティングの主流はインターネットに移行しつつある中で優位性があるはずです。このマーケティング力で、傘下の商品も扱い、受注した商品を傘下のリアル店舗に流すという戦略です。ようは、EC企業の弱みをリアルを持ち同質化するということです。リアル店舗には、物流拠点 兼 倉庫 兼 店舗としての役割を担っていただきます。
先ほどのレタスですが、リスクとなる在庫はリアル店舗と共有在庫とすることでリスク削減できますし、最終的にはレタスを廃棄するのではなくタイムセールなどで売りさばくことができます。つまり、生鮮食料品の在庫リスクをリアル店舗が吸収してくれるのです。他方で、ECには商圏の制約がありませんから、リアル店舗にとっては新たなお客さま開拓にもつながります。つまり、ネットとリアルでお互いを補完する関係です。
リアルとネットの融合という意味では同じですが、リアル企業がリアル店舗の優位性を持ちEC市場へ本格参入したことに対し、EC企業はEC市場の優位性からリアル店舗への参入をすることでベースとなる優位性が違います。つまり、とるべき戦略が違います。この違いを知り、どのようにオムニチャネルを形成するかの戦略が重要になってきます。
このEC企業のリアル店舗への参入ですが、他方でアマゾンがリアルへの参入することは、戦略的にしない可能性が高いと考えます。何故なら、アマゾンにはマーケティングプレイスのサービスがあります。当然ながら、傘下となるリアル店舗に対して特定の便宜を図ることになりますから、この分野におけるマーケティングプレイスの収益が減益となります。これは、アマゾンは成長し続けていて、企業が追いつめられているわけではありませんから、リアルへの参入は得策ではありません。よって、リアル店舗への参入は、次の機会となると考えます。
アマゾンが参入しない理由は理解できたかと思いますが、EC市場がリアル店舗に参入しないことはリアル企業に有利に働きます。オムニチャネルは、ECを含めた総合力が真髄です。リアル企業におけるECへの参入ハードルは低いので、ECだけより総合力のあるオムニチャネルの方が戦略的優位になることは誰もが想像できることです。実は、このことは競争戦略のうえで、とても重要なことです。相手が取りづらい方向に流通市場がなっていくようにすることで、リアル企業は有利に戦えるということです。

EC企業の強みでもあるITが弱みになるリスク

ECはインターネット上でおこなうビジネスで、ITによって実現されています。つまり、リアル企業の店舗と同じ位置づけです。リアル企業の店舗は、作り方・商品の配置・POP等々と、様々なテクニックを使って魅力ある店舗開発をします。つまり、店舗の独自性をだして、ブランディングをしているのです。
ECも同じで、他社と同じように事業をしては成果は限定的です。ECも店舗同様にECでブランディングをすることが求められます。それが、模倣困難性が高くあればあるほど、長期的な成長を後押ししてくれます。