オムニチャネルによる流通業界への影響を考える!
セブン&アイ、資生堂のオムニチャネルを分析しましたが、他社もオムニチャネル戦略を取り組まない理由はなく追随してくることは明らかです。今後、オムニチャネルが普及してくることで流通業界に与える影響は少なくなく、小売企業の戦略の見直しを余儀なくされるものと思われます。ここで、オムニチャネルが普及することで与える流通業界の影響について考えてみます。
(参考)
セブン&アイのオムニチャネルの設計を解析する!
資生堂のオムニチャネルの設計を解析する!
流通業界の影響は、2つの視点で分析することができます。「会社規模(大手企業と中小企業)」と「商品(NB:ナチュラルブランドとPB:プライベートブランド)」です。会社規模は、大手の市場シェア拡大による影響です。商品は、NBとPBによる影響の違いです。この2つの要素の組み合わせを分析することで、影響を把握することができます。
次に詳しく解説していきます。
会社規模(大手と中小)
会社規模の影響とは、オムニチャネルが普及することで大手企業と中小企業で格差が更に広がると分析します。
いままでの小売は、お客さまが来店できる範囲を商圏として商いをしていました。地域にとっては競合店舗もなく独占的だったかもしれません。しかしながら、地方にイオンやセブン&アイの大型店の出店が相次ぎ、個人・中小の商店は閉店を余儀なくされた事例は多々あります。最近では、首都圏にも大型店が進出しており、益々大手企業による寡占状態になっていきます。
このような状況において、オムニチャネルによりECが加わり、地域特性が無くなってきます。ようは、全国が商圏になるということです。このことにより、大手との戦いが避けられていた地域の店舗も戦場となり、資金力でお客さまの利便性を追求できる大手企業による寡占状態が更に強まっていくことになります。
このことは、大手企業が市場における影響力も強まるというになり競争戦略の5フォースから考えれば、メーカーへの交渉力も強くなります。このことにより、メーカーにも価格交渉や商品開発への影響を余儀なくされるということになります。
ただし、全ての商品というわけではなく、メーカーにとって規模の経済性がはたらく商品が対象になります。また、生鮮食料品は鮮度や賞味期限の課題があるため、直ぐには難しいでしょう。しかしながら、常温保存が可能で賞味期限の長い食品などは対象になります。また、アパレルも大きな影響を受けることになることも予想されます。Orobianco(オロビアンコ)のような、どこのセレクトショップでも見かけるようになっている商品は、影響をうけることになるでしょう。
もしデザイニストラボが、セブン&アイのオムニチャネル戦略にアドバイスするとしたら、大型店を補填するセブンイレブンの見直しです。具体的には、商品品揃えの多様化と独自性です。ほぼ、全国同じような品揃えに対して、もっと大胆に地域性やお客さま特性にあわせて、商品の品揃えが出来るようにします。フランチャイズには、裁量の拡大と最低保障の見直しです。また、本部は商品の仕入交渉をして、フランチャイズに提供できるよう、品揃えを支えます。これにより、本部主導の全体最適化とフランチャイズの個別最適化が可能となり、総合的に最大化することが可能になります。そのためには、フランチャイズへの教育も必要にはなりますが、必要な投資です。
商品(NPとPB)
商品の影響とは、NB(ナチュラルブランド)は多くの企業が扱います。マーケティング4Pで考えると、商品に差がないことは当然ながら、地域性の差が縮まり、プロモーションは大手が得意としています。つまり、残るのは価格勝負となります。大手は仕入交渉力とオムニチャネルの物流改革で、物流代金を補填しても価格勝負は出来ます。つまり、大手と同じ品揃えで商圏だけを相手にしていたら、大手にお客さまを奪われてしまうことは必然的です。
他方で、PB(プライベートブランド)は、商品が差別化要因ですから大手にお客さまを奪われる確立は低いです。もし、PBが模倣性が低い商品であるならば、大手は模倣した代替品で対応することが想像できます。ランチェスター戦略の大手の戦い方の王道です。しかしながら、PBは希少性があり、品質が高い模倣困難性がある商品なら、いままでのように大手と勝負するのではなく、お客さまに価値を提供することを考えれば良いと考えられます。
このように、PBとNBでオムニチャネルの影響は違うことがわかります。
会社規模と商品の組み合わせによる影響
- 大手×NB:大手の寡占状態が強まる領域
- 大手×PB:大手が差別化を強めていく領域
- 中小×NB:大手と競争が激化する領域
- 中小×PB:大手との差別化を図る領域
このように、オムニチャネルが普及することで、流通業界は大手小売が優位になり、格差が広がることになります。このことにより、中小は危機感を高めて、戦略の見直しを求められることになります。では、どのような戦略に見直すべきか検討してみます。
中小企業はどのような戦略をとるべきか?
デザイニストラボが考える中小企業の戦略の方向性は「独自性」と「ボランタリー・チェーン(連合)」です。
独自性は、大手との差別化要因の再定義です。既に、確立されているようであるなら問題はありませんが、もし差別化要因が弱い・無い場合であるなら、見直しすることは必須です。
しかしながら、中小の立場から考えれば、PBを扱うには商品開発部門や、生産管理等々と必要になり大変になります。もし、PBが非現実的であるなら完全なPBでなくても、希少性のある商品でも良いので扱うことを検討して欲しいと思います。バイヤーの腕の見せ所です。
また、PBと言っても何でも良いわけではなく、規模の経済が働くような商品ではなく希少性で価値ある商品でなければなりません。そして、PBをお客さまに知っていただくために、ブランディングも必要です。ハードルは高いですが、下請け業者から脱却して成長した企業も多々あります。(下請けから脱却したい)
諦めずに、プラス思考でどうやったら出来るかを考えることが、第一歩です。
もう1つは、ボランタリー・チェーン(連合)です。ボランタリー・チェーン(連合)とは、独立した小売事業者が連携・組織化して、商品仕入・物流・お互いのPBなどを共同化することです。これにより、メーカーとの交渉力が高まり大手との価格差を最小限にする。また、それ以外にもコスト削減が可能になります。
このことは、連合企業が同質化することを意味するのではなく、各企業が独自の商品・サービスで差別化を図りながら、連合で支え合うことで弱みを補完し合うことができます。既に様々な事例はあります。検討することも1つの選択肢であると思います。また、自分たちで立ち上げるのも選択肢です。(デザイニストラボが参謀として支援します!)
補足として、イオンもスーパーマーケット連合を打ち出しています。これは、イオン傘下のグループが基本の連合です。また、丸紅が商社として支えます。セブン&アイの三井物産と同じ役割であると考えられます。イオンのスーパーマーケット連合は、グループ最適化を目指すことが目的のようです。ただ、資本がありますので、地方で有望なスーパーマーケットがあれば、買収することも検討するはずです。お客さまにとってのM&Aであれば、みなさんが幸せになれるはずです。
まとめ
オムニチャネルは、普及と成功度合いによりますが、流通業界の市場バランスに影響することがわかりました。良い方向にバランスが動くことは喜ばしいことですが、想定外に好ましくない方向になる動くこともあるかもしれません。
この市場バランスを(無意識ながら)調整しているのが、お客さま(消費者)です。いくら大手企業であっても、お客さまへ自己都合を押し付けようとするものなら、いつでも・どこでもネットの世界で炎上し、マイナスの影響をうけます。もし戦国時代であるなら、相手へ攻め込む隙を与えてしまったようなものです。そうならないためにも、オムニチャネルをお客さまのために価値を提供することを考えていけば、良い市場へ発展していくものになると思います。
また、中小企業は厳しい時代に突入するかもしれません。しかしながら、独自性と連合により十分に戦うことはできます。これは、いま苦しい思いをしているのであれば、立ち上がるチャンスです。結果的に、いまよりも素敵な未来が待っているはずです。デザイニストラボは、このような志ある中小企業の参謀として応援します。