成功企業に学ぶ!観光ビジネスは観光協会の組織行動が成功の鍵

IT経営

観光ビジネスにおける地域創生(再生)

観光ビジネスの地域創生(再生)について考えます。
観光ビジネスは、地元の大手1社が独自に様々な施策を実行しても効果は限定的です。理由は単純で、観光客が掛ける費用に対して観光で得る体験がプラスになることが限定的だからです。観光客が観光地に訪れるには、下記の計算式が成り立たなければなりません。つまり、旅行にかかる総費用が観光地での体験が上回らなければならないのです。
  観光地での体験 > 時間+交通費+ホテル代+滞在費(レストラン、アクティビティ)+その他含めた総費用
はじめての観光客に対しては、発信する情報や口コミから得た情報をもとに、想像だけで観光地での体験がプラスになっていただかなければなりません。ですので、素晴らしいホテルがあったとしても、時間をかけ費用をだしてまで訪れるホテルなのかということです。現実的には、近くにある観光地や、その他施設、アクティビティ、温泉、自然、世界遺産などのブランドなどにより、総合的に上回り観光客となっていただけています。この総合的な価値を提供をするためには、観光協会としての組織行動が必要不可欠となります。この観光地での体験の満足度が高ければ高いほど、リピーターへとつながるだけではなく、口コミで広めてくれます。そして新たなお客さまを呼ぶ支援となり、好循環モデルを創造します。
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日本では星野リゾートが有名ですが、星野リゾートの組織行動学は大学院のケーススタディでも取り上げられるものです。コンセプトを決め、従業員参加型の経営をすることで、旅館を再生させることに成功しています。ここで重要なのは、従業員参加型です。参加型により従業員のモチベーションが高く、お客さまへの徹底したサービスを提供することが可能になることで、体験価値を高めています。これが、星野リゾートが選ばれる理由です。星野リゾートは、従業員がアイデアを考えて、次々とお客さまへの体験価値を高める施策を実行しています。これが好循環となっています。
星野リゾートとは真逆で、白骨温泉は悪循環から脱却できてないようです。白骨温泉に行く機会があったのですが、交通手段は車がないと難しい・温泉以外に何も無く、観光案内所に聞いても事前に調べたネットの情報とは違い日帰り入浴ができる温泉は2か所だけでした。うち1か所は公共です。白骨温泉は多くの人が知る温泉街でしたが、昔には入浴剤を使った偽装事件が問題となり再生しなければならないにも関わらず、このままでは存続が危ぶまれると感じました。これは、交通網となるはずのバスや、温泉街を再建するため協会が機能していないことの結果だと思います。(ちなみに、白骨温泉を通るバスはあります。)

協会を機能させる7つのポイント

協会を機能させるポイントは7つあります。「明確なコンセプトとターゲット層」「地域に関わる多様性」「モチベーション」「リーダーシップ」「チャレンジ精神と失敗を失敗思わず学習する文化」「オープン性と助け合いの精神」「地方自治体の協力」です。この7つのポイントは、観光ビジネスを創生させるための基本戦略となるものです。

明確なコンセプトとターゲット層

星野リゾートもそうですが、旅館・ホテルにコンセプトがあります。観光地であれば、観光地をテーマにしたコンセプトが必要です。世界遺産があるから、コンセプトは世界遺産ということではありません。たとえば、世界遺産に登録された富士山は、富士山でしかありません。麓にある温泉街は富士山が見えるのであって、富士山ではありません。だから、富士山を最高に見せる温泉街とか、コンセプトを決める必要があります。このコンセプトに基づき、地域全体で施策に取り組みます。もし、各人が自分たちのコンセプトだけで事業をしていたら、富士山の麓にある温泉地ということだけで、他の麓にある温泉地との差別化が出来ません。よって、観光地のブランド化することも出来ません。
また、コンセプトにはお客さまのターゲット層が盛り込まれていなければなりません。富士山といっても年齢層や、パーティ構成(登山仲間、家族、一人)などを参考にして決めます。統計データの事実から分析して決めることが良いと思います。既にターゲットは決まっていると言われるかもしれませんが、変化をしているかもしれませんし、思い込みがあるかもしれませんので、見直しをしてみてはいかがでしょうか。
このことにより、地域・協会組織のベクトルをあわせることで、これからの対応の方向性にブレを無くし、前向きな議論と施策が可能になります。そして、一致団結するという気持ちが出来ます。

地域に関わる多様性

温泉街で温泉旅館だけで構成する協会ではなく、交通網・お土産屋さん・レストラン・アトラクション提供企業なども参画する協会が好ましいと考えます。理由は簡単で、コンセプトは街に対してあるもので、旅館だけで推進しても観光客は、全体として捉えて見るからです。また、街全体の総合力で観光客の価値創造をしなければ、期待効果を得られないかもしれません。どの企業でも、営業・製造・研究開発・間接部門などの各部署が会社の戦略に基づき仕事をしています。このことは、協会でも一緒であると考えます。
白骨温泉でいえば、どうすれば温泉以外の地域資源を使ってお客さまの体験価値を高めることが出来るのか? 「おもてなし」という価値を高めるためにどのような取り組みをすべきか? を考え足りないものを具現化していくことが必要です。場合によっては、体験価値を高めるために、新しく企業を誘致することも1つの施策です。1社だけで悩み努力するよりは、地域の仲間と一緒に事業を盛り立てて、総合的に体験価値を高めることの方が結果につながります。
また、第三者の視点を入れることが重要です。これは、地元に居ると本当の観光客の気持ちを忘れる・どうしても事業の視点になってしまうためです。だからこそ、客観的に観光客の立場になって意見を言える人が居ると良いと思います。リサーチ会社に依頼をしてデータを集めるもの良いですし、実際の観光客に意見を求めるのも1つの案です。オーストラリアのハミルトン島の求人募集で、グレートバリアリーフを周遊してブログにアップする仕事です。話題になったので、知っている方も多いと思います。これは、観光客の立場で体験を広めてくれる最高の広告の仕事です。ここまでは難しいと思いますが、宿泊券をプレゼントし、リサーチの協力を求めるということは出来ると思います。

モチベーション

モチベーションは星野リゾートの例でもわかるように、とても大切です。モチベーションが従業員一人ひとりの行動を広げ、おもてなしとして観光客の体験価値を高めてくれます。これは、リッツカールトンも実施している、心理的に訴求する世界共通の観光ビジネスの基本だと思います。協会では、お互いにお互いを尊重し合いながらも、良い意味での議論をすることで、やる気を引き出し、結果がモチベーションアップにつなげることができます。そして、気持ちよく観光客に価値を提供するのです。人は、相手の気持ちを読み取る能力があります。幾ら言葉では、おもてなしの言葉を言っても、不機嫌であったり、違うことを思っていることは顔や態度でわかります。それでは、観光客の心には伝わりません。心底、観光客におもてなしをしようという気持ちなくして、本当のおもてなしは出来ません。だから、モチベーションが高い従業員が、おもてなしをすることが出来るのです。

リーダーシップ

時には誰かがリーダーシップを取り、良いアイデアがあって、やる気があっても空回りしないようにしなければなりません。
たとえば、観光地にレストランがあったとします。行列があり人気店ではあるものの、従業員それぞれ接客や配膳をしていますが、各自の判断でバラバラに動いているため非効率で、行列で待っている観光客にマイナスの体験をさせてしまいます。もし、観光地一番と評判のレストランであったならば、他のレストランの勝手に相対的評価をしてしまうこともあります。この場合、誰かがリーダーシップを取り、交通整理をすることで効率化が図れます。観光客も嬉しいことですし、効率化により回転率も高まりますので、売上にも貢献します。
協会では、良いアイデアを具現化し、体験価値創造するまで誰かが引っ張っていかなければなりません。一人ひとりの気持ちは一緒でも、交通整理をする立場の人がいると効率的に進み、効果が高まります。
皆のモチベーションが高いときは、俺についてこい!というタイプよりは、交通整理やアドバイス型のリーダーが良いと考えます。理由は、俺についてこい!タイプのリーダーには、指示されたことを実行することが目的の従業員になるからです。行動は、リーダーが考えるので、自分では考えなくなります。リッツカールトンでは、お客さまの要望に応えるためなら上司の許可は不要です。自分たちがお客さまのためと思った判断が決定となります。観光ビジネスにおいては、従業員1人に対して多くの観光客がいます。しかも、観光客は従業員の役割関係なく要望しています。そこで、たらい回しにしたり、待たせるのではなく、観光客のためにベストなことを出来るようにすることが求められています。もし、わからなくても、たらい回しにならないように要望に応えることが出来る人を案内する等々、臨機応変に対応することは出来るはずです。観光ビジネスでは、このような環境化で地域の皆が力を発揮できるようにするリーダーが好ましいと考えます。

チャレンジ精神と失敗を失敗思わず学習する文化

良いアイデアをだし実行しても、常にヒットするとは限りません。当然ながら、想定以下の場合もあります。しかしながら、このことは失敗ではなく学習となります。このようなことをしては、観光客に経験価値を提供する力が弱いということを学べます。もしかしたら、男性向けと思っていたが女性の方が経験価値が高かった等々、いろんなことがわかります。ここから、見直しをすれば、もっと体験価値を高めることが出来る良いものにチェンジできます。
企業でも失敗を恐れて、出来ない理由を並べる・行動しないということは、時間の経過とともに衰退するだけです。また、学習を失敗として責任を押し付けたり、責任を取らせるようであれば、次に手をあげる人はいなくなります。何故なら、何もしなければ失敗しませんから、責任を取らされることもありません。これでは、観光協会としての機能は止まってしまいます。
何もしなければ、観光客にマンネリと思われ、飽きられてしまいリピートは期待できません。老舗は伝統を重んじて事業をしていますが、まったく変化をしていないわけではありません。季節やお客さま一人ひとりに最高の体験価値を提供できるように、日々学習をして努力をしています。皆さんも好きなディズニーリゾートも、新しいアトラクションやイベントを企画することで、リピーターを広げています。常に最高の体験価値を提供するために努力をし続けているのです。
常に観光客の体験価値を高め続ける努力が事業を継続し続ける原動力となります。

オープン性と助け合いの精神

それぞれが企業ではあるものの、地域創生には地域を1つの企業体として考える必要性があります。
観光での経験価値が、総費用よりも上回らなければなりません。車に例えると、観光名所である高性能のエンジンはある。車体となるホテルもある。しかしながら、エアコンとなるアクティビティが不調である場合、暑さ寒さに弱い観光地となってしまいます。出来れば、通年観光客が来ていただける観光地にしたいと思うはずです。
肌感覚でアトラクションの集客がわかると感じると思いますが、アトラクションを提供している企業が観光協会の仲間に、本当に適したアトラクションなのか?、それともマーケティングに問題があるのか?、協会として話し合いをすべきです。アトラクション提供企業からすれば、良い話しではないですし、言いづらいことでもあります。しかしながら、企業で営業が引き合いが不振であることを黙っていることはありません。製造部門にも影響しますし、事業に影響を与えるからです。企業では、営業が不振であるなら、営業を活性化する施策を打ち、企業を盛り立てます。協会も一緒で、規模は大小あれど、アクティビティも観光客にとって観光での経験値を上げる役割を担っています。アクティビティを活性化する支援を協会としてすることで、エアコンが機能し、暑さ寒さに関係なく1年中の観光客が見込めるようになります。このような意見を言える協会となり、みんなで体験価値を高めるという方向性の助け合いの精神で取り組まなければなりません。
また、協会も秘密で活動してはいけません。民主主義で、地域を含めてオープンに活動し、情報提供をしなければなりません。協会も1つの企業と考えますが、各企業体が集まって構成されています。もし協会の一部で独自に動き、地域に影響を与えてしまった場合、幾ら失敗を学習とする文化としても、勝手な行動が各企業の事業に影響を与え、一線を越えた行為とみなされます。これにより、地域や協会のモチベーションが下がり、助け合いの精神も崩れていきます。これでは、築き上げてきた協会・文化が崩壊し、悪循環に陥る可能性もあります。
このことは、もし良い結果になったとしても秘密に行動したことは称賛されないと思います。自己満足でしかないかもしれません。日本においては、民主主義でオープンな活動が協会には求めれています。

地方自治体の協力

地方自治体には条例を制定することが出来ます。たとえば、自然を観光としている地域に自然を壊す事業の参入を防止しなければなりませんが、これが出来るのは地方自治体です。もし条例がなければ、自然を壊す企業が入ってきても、法的に追い出すことは出来ません。観光ビジネスにおけるコアコンピタンス(他では真似できない核となるもの)となる自然を守ることが、観光ビジネスには絶対です。地方自治体も、協力して観光ビジネスの創生をしたいと願っています。地方自治体の協力は日本政府も望んでおり、地域創生大臣がいることからも明確です。

まとめ

観光ビジネスの成功は観光協会が鍵となります。もちろん、マーケティングも重要な戦略で必要不可欠です。ただ、観光ビジネスは観光客の体験全てが価値であり評価される対象です。観光地で見たものだけでなく、ホテルや特産品だけでもなく、公衆トイレも体験として組み込まれます。心理的に嫌なことがあると敬遠しがちです。だからこそ、全てにおいて体験価値がプラスになるようにすることが、観光ビジネスの基本戦略となります。この基本戦略なくして、継続的な繁栄は期待できません。幾らマーケティングだけに力を入れても、一時的でしかありません。まずは、この基本戦略を確立させることが大切だと考えます。
観光地をブランド化できたら、いま以上に地域が生き生きと発展しますし、後継者問題も無くなります。それ以外にも、旅行会社との交渉力も変化してきます。地域の皆さんが幸せになる好循環になります。
地方が創生し、地元の繁栄に伴い地域に住む人たちの幸せに、少しでもお役に立てば幸いです。