【連載】管理とマネジメントは違う

管理とマネジメントは違う!

山田マネージャーと佐々木マネジャーから、D社小林に相談がきた。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
プロジェクトの定例会議をしているのですが、PMO(Project Management Office)の木下さんに困っています。進捗を数値化して報告してくれているので、遅れているのか?進んでいるのか?ということはわかるのですが、それだけなのです。もちろん、段取りや細かいことをしてくれているので、助かってはいるのですが、PMOとは管理するだけなのでしょうか?

D社小林
PMOは管理することを求められています。ですので、プロジェクトをマネジメントすることまではしないのが、一般的に言われていることかもしれません。プロジェクトマネージャーという役割もありますからね。でも、相談にきたということは、PMO木下さんの成果がお二人の期待値を満たしていないのでしょうね。
おそらく、開発ベンダーのPMOと、S社の情報システム部の一員としてのPMOは、役割が違います。開発ベンダーは納期までに要望された機能を開発することが目的ですし、プロジェクトマネージャーがいますので、PMOは補佐役として管理することが求められていると思います。しかも、開発するということに対してのスペシャリストです。でも、情報システム部のPMOは、プロジェクトマネージャーはいますが、業務は開発することだけではなく、業務運用・IT運用・資産管理・保守サポート等々、維持することだけではなく、利益に貢献するITをマネジメントすることが仕事です。つまり、開発ベンダーと情報システム部は仕事内容が違うのです。PMO木下さんは、このことを知らないのだと思います。だから、管理することに主眼が置かれているのだと思います。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
プロジェクトとしては、PMOから専門的なアドバイスや、アクションをしてほしいと思っていますが、管理しかしてくれません。しかも、各チームリーダーからの報告を鵜呑みにするから、矛盾や潜んでいる問題に気がつかないのです。問題となってから気づき、それから各リーダーに原因分析とリカバリープランを要求するのです。各リーダーからは、忙しいのでリカバリーはチーム内に指示しているが、PMOに報告するための原因分析やリカバリープランの資料作りをしている余裕はないと言っています。提出しても、原因分析が間違っていようが興味がないようで、今度はリカバリープラン通りに、進捗しているか管理をします。

D社小林
管理をするために管理しているようですね。これでは、お互いに相手を不信に思うようになり、信頼関係を築くことはできません。わかりました。木下さんと話しをしてみます。

PMO木下
D社小林さん。プロジェクトの進捗についてお聞きしたいのですか?
開発ベンダーは遅れています。リカバリープランは提出されているので、リカバリープラン通りの進捗ができているか管理しています。いまのところ、計画通りです。

D社小林
ありがとうございます。リカバリープランでは、リスケをしていますよね。つまり、遅れていることをリスケをすることで、遅れではなくしているだけだと思います。これだと、後工程にしわ寄せがきて、大変なことになりませんか?

PMO木下
開発ベンダーが言っているので、大丈夫でしょう。

D社小林
開発ベンダーが言っているからといって、リスケはプロジェクトのリスクが高まったことを示しています。PMOとして、プロジェクト管理するだけではなく、プロジェクトのマネジメント支援もお願いできませんでしょうか?
わたしたちは、プロフェッショナルとして採用されてきています。プロジェクトの成功が成果であり、役割をこなすことだけでは無いと思います。開発ベンダーに成功させるための調整や、S社で出来ることを考えて後工程のリスク軽減をすることをすることも、わたしたちの仕事だと思います。それができるのは、知識と経験があるプロ集団である、わたしたちの価値でもあると思います。

PMO木下
わかりました。いままで、他の現場ではしてきませんでしたが、D社小林さんが言われるなら、やってみます。

数日が過ぎたところで、また、山田マネージャーと佐々木マネジャーから、D社小林に相談がきた。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
あれから、木下さんは意識してくれていると思うのですが、どうも話がかみ合わないのです。この間は、物流部門と店舗部門で言っていることが実は違っていて、要件定義に間違いがあることがわかりました。原因は、同じ言葉でもそれぞれの部門での意味が微妙に違っていて、これが要件定義のミスとなりました。私たちは、問題の原因がわかったので、要件定義ミスを正しくしようとしているのですが、木下さんは理解できていない様子でした。要件定義を修正して、プログラミングして貰わないといけないのですが、プログラムの不具合として管理しようとするのです。管理という視点では、最終的に修正されるという意味では同じですが、それに至るまでのプロセス・目先業務の優先順位・工数は違ってきます。これがわからないようです。

D社小林
木下さんは要件定義を知らないようですね。つまり、S社が何を開発しているか漠然とはわかるが、詳細はわからないのです。だから、言葉の意味の違いがわからないのかもしれません。S社の業界を経験していれば、少しは違うかもしれませんが、言葉の意味もわからないのだと思います。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
そういうものですかね。でも、小林さんは経験していなくても理解できるじゃないですか。

D社小林
わたしは、訓練していますので、他の人よりは理解が早いと思います。人・金・もの・情報の流れが即座に理解するスキルを日頃から養っています。MBAの授業のケーススタディでは経験の無い業種・業態は当然のようにあり、知らないからケースができませんとは言えません。振り返ってみると、一緒に授業を受けていた人たちとは、昔から業界を知っているかのようにディスカッションしていました。不思議ですね。おそらく、業種に関係なく、人・金・もの・情報の流れに基本があり、それを理解しているからかもしれません。だから、経験のない業種でも、すんなりと入っていけるのだと思います。でも、木下さんに限ったことではないのですが、理解できない人が多いことは知っています。いろんなプロジェクトに参画してきましたが、理解できていない人は結構いました。

D社小林
実は、このことはプロジェクトを見る視点にも影響しています。
よく「木を見て森を見ず」という言葉は聞きますが、木を見て森を見ずではなく、森が見えないということに陥ります。先日、木下さんにプロジェクトが遅れていたので、開発ベンダーはリスケをしました。納期は変わりませんが、工程の組直しをしています。つまり、後工程に影響があることを暗黙的に示しています。これに気づいていかなったようです。リカバリープランを提出させ、リカバリープラン通りに進捗していることを木を見るとすると、後工程の影響の洗い出しと対策をするという森が見えていませんでした。管理の視点では、森を見ることは気づきません。マネジメント視点だから森を見ることができるのだと思います。
管理とマネジメントは違っていて、マネジメント視点で管理することが本当のPMOだと思います。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
そうですよ。なんとかしてください。

D社小林
いまから木下さんにマネジメント視点で管理することは無理だと思います。経験豊富だからこそ、固定概念があり、すんなりとは無理でしょう。また、木下さんを育てても仕方がないですし、仮にプロジェクトが終わるまでには教育することは困難です。わかりました。渡辺COOから、特別ミッションをいただいているのですが、できる限りプロジェクトの定例会議に参加して、助言していきます。渡辺COOからのミッションは、一人でも出来る業務ですから、リスクではなく、時間の問題ですから大丈夫です。

山田マネージャー/佐々木マネジャー
いつも深夜までお仕事されているのに、すみません。

よくよく話をしていると、森を見えない人が多いことに気づきました。コンサルタントの中には、大規模プロジェクトのPMO経験があるといっても、与えられた役割をきっちりとこなすことに集中し、全体感はわからないのかもしれません。また、プロジェクトマネジメントの経験がない人も多く、マネジメント視点で管理をすることは未経験なため、理解するまで苦しむかもしれません。
開発ベンダーの視点、情報システム部の視点と両方の視点で、マネジメント視点で管理した経験があるのは希少であり、情報システム部の支援としてコンサルティングするには必須なスキルであると思います。