情報システム部門の役割(第二回)

IT経営

情報システム部の役割を深堀する

「これからの情報システム部門の役割」のアクセス数が多くあったことから、第二回目です。
前回、CIOが考える!これからの情報システム部門の役割で、情報システム部門は、プロフィットセンターとしてIT企画に強みを持つべきと説明しました。今回は、さらに深堀りします。

情報システム部の役割の変化

情報化社会となり、ITは経営に必要不可欠な存在となりました。また、パソコンは家庭にも普及しインターネットによって世界中とつながりました。しかし、突然うまれたわけではなく、現代のようになるまでには、様々な技術の進歩による過程がありました。それに合わせて、企業ではITを活用した経営を試行錯誤しながらも発展させてきました。その中心となっていたのが、情報システム部門です。時代の流れに応じて期待される、情報システム部門の業務の変化を把握し、情報システム部門の役割の理解を深めます。
Ⅰ.エンジニアが不足し活躍していた時代(汎用機 ~ WAN/LAN)
大企業は、ホストコンピューターと言われる大型汎用機で全国の拠点を結び、情報の一元化、業務効率、経費削減をキーワードに投資をしてきました。中小企業では、オフコンと呼ばれる中型のマシンを導入していました。SI企業は、IBM、日立、NEC等といった大手が汎用機の導入とエンジニアによるシステム開発を担当していました。
また、経営に必要なITを開発するエンジニアをSI企業へ発注するよりも、社員の方が安く、しかも社内事情による調整がしやすいメリットがあるため、情報システム部門にエンジニアを採用し、SI企業と同様の役割が期待されていました。そして、開発には多くの時間が必要となるため、開発が主な業務となっていました。背景には、ITで出来ることも(いまに比べたら)少なく、企画も戦略的というよりは業務効率でした。つまり、企画よりはソフトウェアを開発することが暗黙的に期待されてきました。
Ⅱ.クラウドサービスの時代(インターネット)
しかし、インターネットにより自社でシステムを持たなくてもシステムを利用できるようになりました。クラウドサービスは、利用者全員と同じ機能であれば、自社で開発するよりも安価で早期に導入することができるため普及してきました。
財務的にも固定資産ではなく経費処理できます。しかも、企業からすれば、スイッチングコストが低くなっていますので、より良いサービスに乗り換えることも安易にできるようになりました。
つまり、IT(システム)は自社で持たなければならないという発想から、システムを利用するという発想に変化しています。このことが、情報システム部門のエンジニアとしての役割が終焉を迎え、システムを利用する企画へとシフトさせることになりました。

情報システム部門の役割を業務視点から理解する

情報システム部門の業務には、「開発(ベンダーコンロトール含む)」「メンテナンス(改善)」「保守」「企画」の4つの業務があります。この4つの業務を現在のIT事情に当てはめて理解を深めます。
Ⅰ.開発
開発は、SI企業に委託して開発することが主です。企業によっては社内でエンジニアを抱える場合もあります。SI企業の強みは、プロジェクトマネジメントとエンジニアです。残念ながら、コンサルティングは期待できません。
さて、この開発ですが、いまではクラウドサービスへと移行しており、自社専用のソフトウェアを開発するのではなくクラウドサービスに置き換わっています。クラウドサービスは汎用的ではあるものの、安価で早期に立ち上げられるメリットがあります。基本機能をクラウドサービスで満たしながらも、様々なオプションを使って独自性をだすことが求められています。(事業に貢献するITソリューションの選び方)。
まだ、全業務をクラウドサービスに置き換えることは超えるべきハードルがあることは事実ですが、徐々にクラウドサービスの比率が高まることは容易に想像ができます。
このことから、情報システム部門において、開発という業務(および、SI企業コントロール)はクラウドサービスへと移行されることになっていきます。
Ⅱ.メンテナンス
メンテナンスは、開発の延長ではあるものの、業務改善や新規開発後の修正業務となります。これも、開発という部分においてはクラウドサービスが担いますので、情報システム部門としては要件をまとめ伝えることが役割となります。しかしながら、企業規模にもよりますが、常に大規模なメンテナンスがあるわけではなく、小規模であったり・それなりの規模は年に数回であると思われます。つまり、常に情報システム部門が必要というわけではないということになります。
Ⅲ.保守
保守は、システム稼働という点ではクラウドサービスが責任を持ちます。SLAと呼ばれる品質保証がありますので、それに準じます。ですので、情報システム部門としては特に業務はなくなります。万が一のときに、リーダーシップを発揮し、復旧までの間の業務が遂行できるように支援する事ぐらいです。ただ、基本的にはゼロです。もしあったとしても数年に1回有るか無いかの出来事ですので、不要と思っても良いと思います。
もう1つ、ヘルプデスクがあります。パソコンが壊れた・アプリケーションが動かなくなった等です。これは派遣で補うことが多いです。
よって、保守としての情報システム部門の役割としては、必要なくなってきています。
Ⅳ.企画
最後に企画ですが、これが前回もご説明したように期待される役割です。本質的には、経営・業務・技術の視点から企画することが求められるのですが、上記のことから唯一残っているのが企画でもあるのです。
企画は、課題解決のためにIT投資を考えるわけですが、中小企業ではパソコンに詳しい社員が兼務で担当したり、SI企業に相談することが多いと思います。実はここに落とし穴があります。パソコンに詳しい社員は優秀でありながらも、失礼ながら専門的に長年業務としてやってきた情報システム部門には劣ってしまいます。ですので、正しいIT投資の判断ができません。どうしても、最終的には発注先のSI企業の言いなりになってしまう傾向があります。
では、SI企業はいうと、どうしても自社が売り出し中のソリューションを提案をします。しかも、ITの見積りは自由ですので、相手がITを知らないと思えば、高い単価や理由付けをして工数を膨らませた見積りをすることができます。でも、残念ながら見抜くことは専門家でなければ困難です。IT業界にいたとしてもエンジニア経験だけでは厳しく、情報システム部門の予算を管理する役職経験と豊富なプロジェクトマネージャーの経験がなければ、SI企業と対等に話をすることができないでしょう。SI企業はIT用語を並べてきますから、IT用語を理解しつつも自社に最適な提案と価格に修正させなければならないからです。ここまでしなければ、必要の無い時間とコストを費やしてしまうことになるのです。
また、企画はビジネス思考と技術の両面が必要です。技術はアーキテクチャーです。アーキテクチャーを間違えると、余計な時間をコストを要するだけでなく、メンテナンスの時間とコストにも影響します。ちょっとした改修でも「こんなに投資が必要なのか!」と思ったことがあると思いますが、この理由がアーキテクチャーの問題なのです。
家を建てると想像してみてください。ドアや窓の位置、大きさ、階段の位置等々と細部まで考えて設計します。その後、お子さんが産まれ子供部屋の設置、老後のバリアフリー等を後から改築しようとしたとき、玄関のサイズが小さい、柱が邪魔といった問題が発生し、ドアの取り換えに伴う壁の影響、柱の移設・補強といったコストが発生します。もし、アーキテクチャーを管理していれば、予めドアを変えても壁への影響を最小限にし、部屋の間仕切りを移動式にしておく等ができます。つまり、要件を満たしながらも、これからの変化に臨機応変に対応できる設計です。ITも一緒で、経営も同じことをしているわけではなく、その時々の戦略・戦術があって経営をしています。これにITも対応していかなければならないのです。
ビジネス思考は、たとえばオムニチャネルを考えた時、顧客への体験価値を最大にするための要件を考えた場合、在庫不足による機会損失は想像ができても、余剰在庫のことまで考えて在庫調整の仕組みを考えることです。更に、余剰在庫が発生しそうな場合には、在庫処分キャンペーンなども検討しなければならないかもしれません。でも、最初から在庫処分が前提としていたわけではないはずですし、発生したとしても単発です。このようなときのために最初からキャンペーン機能として用意するのは無駄で、必要なときに必要な経費だけで対処できるようにする仕組みを考えるべきです。ようは、ITの機能を決める際には、ビジネス視点で機能・範囲・関連する影響を考えたうえで決定することです。残念ながら、ほとんどの人は企画のテーマの範囲で業務を電子化する発想です。これでは、投資対効果は限定的です。
これは、ビジネス思考による影響と変化を把握することと、技術によるアーキテクチャーを設計する両面の知識と経験がなければ、実現できないことです。

まとめ

以前、知人がIT投資で苦労していると相談してきました。話を聞くと半額でも良いのではと思われる投資を時間とコストをかけていました。最初に相談していれば、SI企業との交渉・妥当性を示すことが出来るだけでなく、コンサルを依頼していればSI企業のコントロールも全て任せられるので、様々なことに時間を取られることなく、しかも、コンサルティング費用を払っても、余りあるSI企業への時間とコストを抑えることが出来たと後悔していました。
このことは、知識・経験のある情報システム部門が居れば、防ぐことができたかもしれませんが、会社規模から社員を抱えることは難しく、しかも、企画・SI企業と対等に話ができる、経験・知識のある人財は募集しても来てくれないのが実態です。どうしても、経験・知識のある人財は、大手企業へ就職してしまいます。しかも、情報システム部門の役割は、縮小化傾向にあるため、そもそも社員として採用する必要性も検討しなければなりません。
これからは、情報システム部門を固定費とするのではなく、経費(変動費)としてコンサルタントをうまく使うことの方が、トータル的にコストを抑え、しかも有識者に依頼できるというメリットがあるため普及すると思われます。本質的には情報システム部門は必要ですが、企業規模、事業特性から、戦略的に弊社のような企業と顧問契約をして、良い意味でのコンサルタントを利用することが好ましい時代へとなっていきます。
宣伝のようになっていますが、これが現実でもあるのです。税理士の先生は、税に詳しく専門的にアドバイスをしていただけます。しかし、社員として抱えるのではなく、必要なときに必要なアドバイスをいただくことを期待しています。情報システム部門も同様に、必要なときに必要なコンサルティングをして欲しいという時代になっていきます。
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