【連載】情報統合戦略 ~ERPとオムニチャネル戦略~

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はじめに

ERPの考え方とオムニチャネル戦略の導入を通じてIT経営に改革する企業を小説風にしてみました。企業(情報システム部)の視点で書かれています。意図は、ITパートナー視点だと、プロジェクトマネジメントになってしまい、プロジェクトの導入が目的となってしまうからです。本質は、導入する企業が成功することです。だから、導入する側の企業視点で記載することにしました。できる限り、実務で使えるように一般論や理論のうんちくを並べたような内容ではなく、実際の生々しいことも混ぜていこうと考えています。また、随時書き加えていきますので、公開済みの内容も微妙に変化することがあります。筆者は小説家ではないので、何卒ご了承ください。

イントロダクション

S社は、雑貨のセレクトショップで、競合店舗とは少し違った商品を取り扱っていた。創業当時から経営管理を用いて、効果的に売上を伸ばしていった。数字を管理する手間は大変ではあったが、創業時は資金も豊富にあるわけではなく、限られた少ない資金でやりくりするためには、少しでも無駄のない効果的な経営をするためには必要不可欠であった。経営管理で、事実を元に意思決定をすることは想像以上の効果を得られ、顧客も順調に増えて、多店舗展開を図ることができた。
数年が経ち、競合他社も似た商品を扱うようになり、競争が激化してきた。いままでの延長で経営をしていても、現状からの打開策にはならず、小手先の施策では短期の売上を作ることにしか効果が期待できなくなっていた。

S社のトップである鈴木CEO、同社COOの渡辺取締役、同社CFOの齋藤財務部長、D社の小林が社長室で会議をしていた。D社小林は、渡辺取締役と経営大学院の同期で、経営とITに詳しくS社の経営改革の参謀役として呼ばれていた。
社長室での会議は、これからのS社の経営戦略の方向性について議論されていた。経営課題は多くあるが、その中でも成長率が横ばいであることが一番の課題であった。しかも、横ばいと言ってもマーケティングコストを投入して維持している状況であり、先行きが不安になっていた。CFOの齋藤財務部長から、財務諸表・経営管理の資料の説明があり、売上維持・経費増で収益性が落ちていた。齋藤CFOから、全社で経費削減を提案してきた。確かに経費削減は重要なテーマである。しかし、D社小林から、市場・競合他社の状況を考えると、経営にとって収益性はとても重要だが、その先も経費削減を続けなければならなくなる可能性がある。よって、経営の基本に立ち戻り、顧客視点のサービス基盤を再構築すべきではないかと提案があった。渡辺COOからは、商品の品揃えの強化を提案した。既存のお客様にもっと喜ばれる商品を仕入れること、お客様の声を反映させたPBを始めることも1つであると説明した。
鈴木CEOは、どれも正しい意見であることは理解できる。しかも、どれも重要であることも理解している。とはいえ、全てを実施するのは無謀であり、社員が混乱するだけである。どれも、いずれは取り組まなければならない経営課題でもあるので、優先順位を決めて長期プランに落とし込むことにした。4人は、顧客・市場や競合・会社の状況から、優先順位を決めることにした。その議論の中で、鈴木CEOから、最近大手流通業ではオムニチャネルの導入が積極的である。オムニチャネルの概念はわかっているつもりだが、そんなに良いものなのか? という質問があった。D社小林から、オムニチャネルを調べるとリアル店舗とECの融合視点で説明されていることが多いです。ただ、IT導入するための宣伝になってしまっています。確かに、オムニチャネルの導入にITは必須です。しかも、IT構築は重要な役割を持ちます。しかし、某日本最大手の小売り企業は、リアル店舗とECの融合視点で大規模なIT投資をしていますが、しっかりと顧客サービス向上、物流コストの削減の両立で考えられています。わたし(D社小林)は、オムニチャネルはECが無視できない販売チャネルとなる一方で、EC・リアル店舗含めた複数の販売チャネルの特性を活かしたマーケティング視点を起点として、全体最適化をする手段であると考えています。これにより、ITを味方にした筋肉質の企業になることでしょう。このことには、他の3人も同意見であった。また、ITは導入することが目的ではなく、使うことで効果が期待される。このためには、基幹にはERPの考え方を導入した設計とし、データから経営・業務に活用する情報を提供する仕組みが重要です。ERPは大企業が入れる高価がイメージがありますが、思想は取り入れるが、まったく同じものを導入する必要はありません。わたしに良い考えがありますので、このプロジェクトで実現してみましょう。
その後も議論を続けた結果、鈴木CEOは、皆からの提案に感謝し、S社はオムニチャネルをキーワードに大規模な投資をすることに決定した。しかし、減益になっている現状もあることから、投資予算は確保するが、ステップ別に投資を進めることにした。オムニチャネル戦略は全社で進める必要があることから、渡辺COO直轄の全社プロジェクトチームを発足させた。プロジェクトチームには、齋藤財務部長も資金面で参画することになった。また、ITと経営の両方に精通しているD社小林もプロジェクトに参画することになった。

登場人物

  • (主人公)山田マネージャー – S社情報システム部のマネージャー
  • 佐々木マネージャー – S社マーケティング部のマネージャー
  • 鈴木社長 – S社CEO
  • 渡辺取締役 – S社COO。情報システム部・マーケティング部管掌
  • 齋藤財務部長 – S社CFO
  • 田中情報システム部長 – S社情報システム部の部長
  • 高橋マーケティング部長 – S社マーケティング部の部長
  • 中村マネージャー – S社店舗部門マネージャー
  • 加藤マネージャー – S社流通部門マネージャー
  • 伊藤マネージャー – S社仕入部門マネージャー
  • 山口マネージャー – S社財務部門マネージャー 財務・総務・人事の代表としてプロジェクトに参画
  • D社小林 – D社のコンサルタント。IT経営を得意としている。渡辺COOとは経営大学院の同期。

プロジェクト体制とメンバーの選定

渡辺COOは、プロジェクト体制およびメンバーの選定をすることにした。早速、オムニチャネルはITに活躍してもらわなくてはならないので、情報システム部から田中部長、マーケティング視点も必要になることから、マーケティング部長の高橋部長が呼ばれた。D社小林も同席し、4名でプロジェクト体制とメンバー選定について、打合せがおこなわれた。
最初に渡辺COOから、情報統合戦略として、ERPとオムニチャネルについて話があった。そして、次の経営会議で、鈴木CEOからプロジェクト発足について話があり、その際にプロジェクトメンバーについても話があり、全部門が協力するように指示があるとのことだった。そこで、皆にはプロジェクト体制について、意見を聞きたいと話をした。
高橋部長は、「これからのS社の基盤となる重要な投資であることは理解しますが、このプロジェクトは長期になります。部長として参画すべきですが、正直いえば現状維持で手一杯で、中途半端に関わることになってしまうことを懸念しています。ですので、次の部長候補となるマネージャークラスを選任として参画させたいと思っています。」と意見があった。田中部長は、「高橋さんの意見に賛成です。とはいえ、S社にとって重要な投資ですので、部長が責任を持ち、次の部長候補に主体性を持って参画する体制が良いと考えます。」と意見した。このことについて、誰も反論する事なく、皆が同意見であった。

D社小林「わたしも賛成です。情報システム部、マーケティング部以外からもマネージャークラスに参画してもらいましょう。ただ、経営会議では、渡辺COOに全責任があるが、各部の部長にも責任があることを宣言していただきましょう。全社のベクトルをあわせなければ、期待した結果を得られることは無理でしょう。プロジェクトを成功させるには、当事者意識を持たせることが大切です。とはいえ、どうしても、目先の業務を優先させてしまう人、改革に否定的な人もいます。また、自分が所属する部門のことは理解しているが、全社の業務フローをわかっている人は多くありません。だからこそ、自分の部門の視点でしか話をすることができません。おそらく、全部門を横断的に関わりを持っている情報システム部だけでしょう。ですので、あえて情報システム部には、中心的役割を担っていただきたいと思っています。」と、意見した。

議論の結果、渡辺COOの直下に各部からのマネージャークラスのプロジェクトチームをつくり、部長は部門間調整が必要な課題について意思決定する立場とした。そして、実際の推進役リーダーとして情報システム部の山田マネージャーと、マーケティング部の佐々木マネージャーが任命された。オムニチャネルを具現化するには、IT視点とマーケティング視点が必要になるため、2トップとした。

また、本来なら経営陣から明確な優先順位を示してプロジェクトを進めるべきだが、プロジェクトメンバーには次世代の経営陣として活躍してほしいという期待があることや、当事者意識を持たせるために自分たちで考えさせることにした。

プロジェクトチームの最初の課題

取締役会で正式に大規模投資の承認がされ、経営会議でもオムニチャネルをキーワードとしたプロジェクト発足の話がなされた。
渡辺COOは、田中部長、高橋部長、山田マネージャー、佐々木マネージャーを呼び、オムニチャネルプロジェクトが正式に発足したことを話した。そして、山田マネージャー、佐々木マネージャーにリーダーを任命し、推進役の中心になるよう指示があった。そして、部長が補佐をすることや、D社小林も全面的に支援することを約束した。山田マネジャーと佐々木マネージャーは、期待されていることの嬉しさがある反面、自分たちで推進できるのかという不安が入り混じっていた。
渡辺COOから、早速2人に課題を伝えた。「プロジェクトは発足したが、まずはキックオフミーティング資料を作成してほしい」との指示だった。2人は、いつも部内会議の資料を作成していたので、「承知しました。」と返事をして、2人で作成することにした。

2人は、まずアジェンダを作成することにした。アジェンダには、「プロジェクト体制」「これからの進め方」「概略スケジュール」とした。基本的には部長から渡された経営会議資料の焼き直しと考えていた。そこに、齋藤財務部長が通りかかり「プロジェクトを進めているな。頑張れよ。ちなみに、オムニチャネルとは何だい? 実は良く理解できていなくて、インターネットで調べたけど、いま一つ理解できていないんだよね。他の人も理解できていないかもしれないから、キックオフミーティングの際に説明してくれるかい。」と、言い残して去っていった。

2人は、アジェンダに「オムニチャネルとは?」を追加することにした。早速、オムニチャネルという言葉は知っていたので、説明資料の作成にはインターネットの記事を参考にしようとした。調べてみたところ、オムニチャネルは在庫の一元管理が重要とあった。他の記事には、顧客管理の統合が重要とあった。それ以外にも、いろいろな事が書かれていた。オムニチャネルはECと店舗の融合ということは知っていたが、それにより企業がどのようになるか想像していなかった。2人は、意見交換をしたが、どれも憶測だけで話しをしており、結論には至らなかった。そして、経営陣はオムニチャネルで、何をしたいのだろう? という疑問となった。2人は、D社小林に助言を求めた。

山田「小林さん。齋藤さんからキックオフでオムニチャネルの説明をするように言われたのですが、そもそも渡辺COOがオムニチャネルで何を求めているのか、わからなくなってしまいました。」

D社小林「オムニチャネルという言葉は知っているよね。多くの人がECと店舗の融合と説明しています。でも、人によって解釈は違うし説明も違う。わたしも他の人とは違う解釈をしています。オムニチャネルには明確な定義が無いから、伝わらないのだと思います。」

山田「そうなんですよ。オムニチャネルを導入すると、機会損失が無くなるだけでなく在庫が減りコストが下がります。さらに、顧客管理が一元化されるので売上が上がります。さらに…と、言い切れないほどのメリットがあることは理解できます。しかし、経営陣はそれをしたいわけでは無いと思うのです。」

D社小林「その通りです。では、S社は、どのようなビジネスをしていますか?」

佐々木「雑貨のセレクトショップで、競合店舗とは少し違った商品を取り合うことをしています。ですが、競合他社も真似をするようになってきています。ですので、キャンペーン等を企画して、なんとか売上を維持しています。」

D社小林「そうですね。では、お二人が経営陣だとしたら、どうしたら良いと思いますか?」

佐々木「TVCMや、テレビショッピングで販売しても良いと思います。もっと、メディアに露出しても良いと思います。」

山田「そうかもしれないが、コストがかかるんじゃないか? 在庫管理を一元化してコスト削減が良いと思う。もっとITで効率性を高めて、経費削減するべきではないか。」
佐々木「いやいや、売上は一番重要だから、売上を考えるべきだと思う。」

D社小林「ありがとう。お互いの経験や立場からすれば、どれも正解です。でも、ビジネスをする上で最も大切なのは、お客様です。売上も経費もお客様が決めるといっても過言ではありません。学生時代のテストに例えると、売上も経費もテストの点数です。目標値を100点とすると、毎月100点を取り続けなければなりません。そのために、どのような勉強をして試験に挑むかが、オムニチャネルで求めているものです。そして、その採点をするのがお客様ということです。だから、いくら努力をしても採点するお客様が、間違っているといえば、間違いです。だから、お客様が最も大切なのです。」

佐々木「テストで100点を取り続けなければならず、いまはキャンペーン等の販促費をかけて取っている。しかし、この勉強法には限界があるので、次の勉強方法を考えなければならないということですね。そして、それがオムニチャネルということですね。では、再度経営陣としたらオムニチャネルで、どうしたいか考えると、お客様のサービスを起点に考えると、お客様は自分のほしい物を探してくるわけですから、その期待に応えることだと思います。でも、期待といっても様々です。会員ポイントでの割引もそうですし、品揃えもそうです。」

D社小林「具体的な戦術はその通りですが、ここではお客様の情報をマネジメントすることとしておきましょう。オムニチャネルの定義は自社に適した考えで良いと思います。S社は、これからEC事業に本格参入するということもありますので、「全ての販売チャネルで、お客様に最高のサービスを提供すること」としては、どうでしょうか。そして、プロジェクトでは、「何事でもお客様の期待に応えるには・・・」として考えることとしましょう。」

山田・佐々木「わかりました。」

D社小林「もう一つ、キックオフで伝えて欲しいことがあります。今後、プロジェクトを推進していく上で、部署間の調整が必要になってくることが多々あります。その時に、理想の発想を止めないことです。現実には妥協して決めなければならないこともあります。しかし、それは現状と何も変わりません。」

山田「わかりますが、わたしたちには権限がありません。」

D社小林「そうですね。ですので、部署間の課題や大きな課題は渡辺COOに助けてもらいましょう。渡辺COOなら、効果があると理解できれば、組織を変えることだってできます。うまく経営陣を使うことです。このことを、プロジェクトメンバーに伝えてください。これは、これから業務設計をすることになりますが、発想の壁を壊してほしいという意図があります。」

山田・佐々木「わかりました。」

序章のまとめ

自社のビジネスに適したオムニチャネルを考えることが大切です。インターネットで検索した情報には、一般論やオムニチャネルのサービスを売るためのアピールもあるので、オムニチャネルの本質を理解し、自社ビジネスに適用したらどうなるのか考える事が大切です。
そのためには、オムニチャネルに期待する目的を明確にしなければなりません。目的は、オムニチャネル導入プロジェクトの指針となり判断の基準となります。プロジェクトが推進されていくと、忘れていかれてしまうものです。とても重要なことなので、常に頭に入れておき、プロジェクトを推進していきましょう。

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