中小企業のための管理会計

経営管理

管理会計とは?

管理会計とは、会計情報をもとに組織評価や経営の意思決定に役立てることを目的とした考え方です。
わかりやすい例でいえば、売上の予実です。目標達成率を見て、営業が効果的に活動できているか? もし目標達成率が遅れているなら対策をどのようにするのか? といったアクションを取るための考え方です。
では、管理会計はどのように取り組めば良いのでしょうか?

事業特性と管理指標を決める

管理会計を取り組むには、事業特性と管理指標を決めることがポイントです。管理指標を業界の常識で決めるのではなく、事業の市場価値から決めることです。

中小企業のための管理会計

中小企業のための管理会計


たとえば、架空の鞄の製造・販売している企業で考えてみます。
鞄の製造には、簡単には下記工程を経ます。
デザイン → 革の素材の選定 → 裁断 → 裏素材の裁断 → 裁断面の加工 → 縫製 → 組立(縫い合わせ) → 仕上げ → 販売
事業特性を考えると、原材料となる革を仕入れ・製造して・販売することではありますが、鞄ビジネスの差別化要因に「品質」があげられます。この場合、鞄を効率良く作ることが重要ではなく品質を維持することが重要であることになります。ですので、安く原材料を仕入れることや、販売に経営の重点をおくのではなく、品質に重点をおくことが経営判断になります。逆に薄利多売で大量生産する鞄であれば、品質よりも製造コストを抑えることが経営判断となります。
つまり、製造する鞄の市場価値によって取るべき経営判断が違うということです。
この経営判断となる事業特性にあわせた管理指標を決め管理します。
たとえば、製造工業を持ち大量生産する企業とした場合、革素材の仕入れ価格、1枚の革当たりの生産量、裁断から仕上げまでの時間(生産性)、在庫数などを管理します。
仕入価格が指標となれば、仕入れ担当は目標数字を達成するために、仕入れ交渉、仕入れ先の開拓などのアクションをします。言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、実際に目標値を持って実施できているでしょうか? 安かった高かったと感覚値で評価していませんでしょうか。もし月当たり100万円の仕入れをしていた場合、100万円を指標をして5%高かったら、月5万円・年間で60万の原材料コスト増ということになります。これを販売価格に転嫁できれば利益は確保できますが、そうも出来ないのが現実です。つまり、利益を削って仕入れているということになります。
このようなことを未然に防ぎ、利益を確保するためにチェックポイントとなる指標を立て、管理していくことが管理会計です。
●参考 製造業における経営管理のポイントと対策

仕入プロセスの無駄 改善(案)
各工場、生産ラインがバラバラに原材料を仕入れていないか? 計画的な大量仕入れで、仕入れ交渉力を強めることができる。
生産計画に基づいた仕入れになっているか? 無駄な原材料仕入れを無くす。
生産地を考慮した調達先か? 原材料を工場へ輸送するコストを削減することができる。
製造プロセスの無駄 改善(案)
歩留り率が低くないか? 原材料当たりの生産の無駄をなくす。
生産コストの高い工場・製造ラインで製造していないか? 1人員当たりの生産性が高い工場・ラインで生産することでコストを削減できる。
本当の生産コストが見えているか? 活動基準原価計算を用いて、製造に紐づいたコスト管理をする。
営業プロセスの無駄 改善(案)
営業担当者判断で大幅値引きをしていないか? 利益より売上優先。戦略的でない値引きは利益を下げるだけ。上司判断プロセスを入れることで、値引きが減り利益に貢献する。
利益率の低い製品に営業力を費やしていないか? 重点製品を設定し営業活動をすることで、利益率が上がる。またPLC(Product Life Cycle)を考慮することで、安定した利潤を確立する。

なんでもかんでも指標にしない

管理する人にとっては、なんでもかんでも指標にしたくなるものです。しかし、実際に業務をする人は管理指標に追われてしまい逆に成果をだせないことになってしまいます。管理できる個数には限界があります。
たとえば、革素材の仕入れ価格、1枚の革当たりの生産量、裁断から仕上げまでの時間(生産性)で、鞄を造る工程においては十分です。
革素材の仕入れ価格で、仕入れに関する評価出来ます。1枚の革当たりの生産量で、原材料の無駄を評価出来ます。裁断から仕上げまでの時間(生産性)で、従業員の生産性を評価出来ます。従業員の生産性を評価出来るということは、人件費の管理が出来ているということになります。ようは、従業員の生産性が悪いということは、製造に時間を要していて残業代が増加しているということです。ですので、残業代も気になることではありますが、従業員の生産性を見れば評価できるということです。
また管理指標は経営課題を感知するものです。経営課題の答えではありません。経営課題は、複数の要因が複雑に入り交じっています。またケースバイケースで要因も違いますし、影響割合も違います。ですので、管理指標でキャッチし、実際の経営課題の解決は個別に原因分析をして解決していきます。

コスト管理は活動基準原価計算

コストは活動基準原価計算が好ましいです。活動基準原価計算とは、実際の業務でかかったコストを紐づけて管理することです。
たとえば、仕入れコストを考えてみると、鞄のラインアップによって使う革の種類も違いますので仕入れ値も違います。これを合算して管理してしまうと本当の原価がわからなくなってしまいます。たとえば、大量生産用の革の仕入値が急騰して、少量生産用の仕入値が下がっていたら合計すると相殺されてわからなくなります。ですから、せめてラインアップ単位で管理する必要があります。

現場が判断し動けるようにする

トップダウンで判断すべき事項もありますが、現場長で判断し改善に取り組む事項もあります。従業員の生産性を改善を一つ一つ地道な改善活動をするのは、経営者より現場を細部まで知っている現場長の方が良いかもしれません。ですので、現場長が自分の管轄する管理指標をみて動けるようにすることで、迅速で確実な対応が可能になります。

まとめ

管理会計は戦略の施策とリンクさせることで効果が高まります。「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点で、戦略実行における施策を体系立ててストーリーにして全社に戦略を共有する戦略マップと一緒に使うことが有効です。戦略マップで設定した業績評価指標をもとに管理会計としてマネジメントする使い方をします。これにより、経営戦略を組織に浸透させ数値管理することが可能になります。
管理指標に戦略的意図を持たせることで利益を拡大することが出来ます。これにより、筋肉質な経営体制になっていけるのです。